Nayunayu先生 ~愛のある教室~

現場教師の27年間の実践理論

吃音(後編)

吃音3

 いよいよ最後です。30年来の友達のことを紹介する最後のページですので、なんとなく寂しいような・・・・。夕食を食べ、お風呂に入り、ちょっと仮眠したので、気合いが入っています。さあ、はじめましょうか。

 

「吃音」が出そうなときの対処方法

 自分がそうなのか、身近な人がそうなのかで若干説明が変わります。

 若干なので、対処方法に違いはありませんが、立場が違います。本人なのか他者なのかということが問題になります。他者、つまり支援者になりますが、その場合は以下の事を肝に銘じてください。

 

 治そうとしないこと。治ることもあるし治らないこともあるので、どうしようもない問題です。ありのままの本人の気持ちを受け入れることです。具体的には何に困っているのか、どうなりたいのか、進む道を本人に選ばせるようなつもりで明確にしてください。これをしないでサポートしようとすると、「ぼくの吃音はやっぱり良くないのだ」という心理状態になってしまいます。

「吃音」という状態を本人はたいてい嫌がっていますが、コミュニケーションを取る場合にだけ出てくる現象でもあるので、嫌がる理由は相手との間で起こるのです。ですから、治そうとするとコミュニケーション上、良くないものだ、つまり自分は良くないのだというふうに進んでしまいます。

 そうならないために、治そうとしないことです。「吃音」も個性の1つぐらいに押さえておきましょう。・・・実際その程度ですから。

 

 では対処方です。いくつかありますが、順番があります。

 1番があって、それ以外は特に無いのですが・・・。1番だけあります。

 

1番 その子の個人的な状況を把握すること。

 「吃音」は極めて個人的な現象です。私の状態と同じ人はいないと説明しました。ですから、目の前にいる「吃音」を持っている人の状態を完璧に把握してください。程度、時期、状況の3つは必ず押さえておきましょう。

 子どもの場合は、お家の方からも様子も聞く必要があります。主観+客観で、どんなことで困っているのか情報を正確に集めてください。本人に聞くときは、最初は話したがらないこともありますが、根気強く聞いてください。「吃音」をテーマにたくさん話をしてください。

 「吃音」はなかなか表舞台に出ようとしません。矛盾するようですが、表に出ちゃうことで問題になるという性質と、だから隠れておきたいという性格が混ざっている複雑な子が「吃音」なんです。なんだかいじらしくなってきたので、「吃音ちゃん」と呼びたくなるほどです。

 完璧に理解したら、対処方はその時点で見えてきます。基本原理としては、言葉が出る状況を作り出せば対処できたということになりますから、状況が見えた段階で半分はクリアします。どうしたら出るのかということを、実は本人も知っていることが多いですから。

 

2 最初の言葉が出しやすい状況を聞く。

体を動かすと出る ・・・・という人はそれをやればOKです。ただし、あまりにも変な動きだと、それはそれで変な風に見られちゃうので、他にどんな動きだと出やすいかを一緒に考えてください。「吃音」者が最も嫌がるのは、「変な風に見られる」ということですから、ばれない状況が生み出せるのならいいのです。

 

紙に書いてある文字を読むのは大丈夫 ・・・と言う人はそれをやればOKです。日常会話では難しいでしょうけれども、公の場でのスピーチには有効です。本人もおそらく気付いているでしょうから、小さなメモ帳を持たせるとかもいいですよ。

 

逆に紙に書いてある文字を読むのは出る ・・・と言う人は書かないことです。日常会話ではそもそも書く必要はありませんから、公の場でも書かないことです。メモ程度ならいいのではないでしょうか。

 

とにかくどうしようもなく出ない ・・・時期があるので、今はそうだということを受け入れましょう。無理に治そうとしないで、どういうサポートを受けたいかを本人に言わせてください。

 

3 言葉は言い換えられることを伝える。

 最初の文字が出ればすらすらと言葉が出るのが特徴であり、最初にどの文字がくると出ないのかは人によって違います。逆に言うと、最初の文字を変えてしまえば出るということです。

 例えば「うさぎ」と言いたいときに「う」が出ない。だから「う」ではない言葉にすれば出ます。「しろいうさぎ」「あのうさぎ」「さっきのうさぎ」など、頭になにかつけるのです。

 ところが、「しろい う、う、うさぎ」なんていうことも起こります。もう、「う」が頭にくるとダメなときはダメということになっているときは、この方法でもうまくいきません。そんな時は、「う」自体をあきらめます。「●さぎとかめ」みたいに、後半の言葉で補ってもらっちゃいましょう。

 もっと良い方法は、言葉自体を変えてしまうことです。

「お母さん」の「お」が出にくいなら、「母さん」と呼ぶことにする。

「ご飯」の「ご」が出にくいなら、「食事」と言うようにする。

「食べる」の「た」が出にくかったら・・・・例えばそれ自体を省略。

「ご飯食べ終わったら、アイス食べていい?」と言いたい場合、

「ぜんぶ終わったら、アイスいい?」

 これで十分通じますから。

 

4 環境を整える

 子どもなら、生活圏の認知度をあげることで安心感が生まれます。

 ご家庭では、これまで私が書いてきた内容を理解していれば大丈夫ですが、問題は社会です。子どもなら学校、大人なら会社というように、生活エリアがあります。そこにある程度理解をしてもらうと安心できます。

 特に、子どもならクラスの友達に正しい状況を教えておくと、その友達たちにとっても深い学びになります。ただし、やっぱり「吃音」をもっている子に聞いてからにしてください。本人が「知られたくない」と言えば、そのようにしてあげることです。言い方としては、

「先生からみんなに伝える事はできるけど、どうする?」

みたいな感じで聞いてください。

 

5 どうしようもない問題についてはあきらめる。

 1番から4番までを、あくまで本人を主体として進めると、日常生活で困ることはほとんどなくなりますが、どうしても避けられない問題があります。

 それは自分の名前です。自分の名前の最初の文字が出ない場合、これだけは避けられないのです。固有名詞全般にわたって言えることですが、特に自分の名前は言う機会も多いし、言い換えもできないのです。

 最終的に困るのは、この時ぐらいになりますから、あきらめて「吃音」を出すか、最初に宣言しちゃうと楽になります。

「実は、吃音があって、今、自分の名前が出ないので、待ってください。」と、宣言して、一呼吸置くと出る場合があります。あきらめるというのは、明らかにしておくという宣言です。それができるようなら、はじめから苦労はしないのですが・・。

 

「吃音」ちゃんの存在意義

 そろそろお別れの時間がやってきました。

 対処方を書いてきましたが、あくまで対処方です。本当の私のオススメは、「吃音ちゃん」とお友達になることです。嫌がらないことなんです。

「吃音」という現象自体は、悪意も善意もなく、ただ起こります。

 それを良いとか悪いと自分で決めているだけですから、良いとすれば仲良くなれるんです。だから、受け入れて大切にしてください。

 私は小学3年生の頃に発症し、程度はそれほど重くはありませんでしたが、それでも苦労することがありました。でも、今はほとんど出てこないので、周りは私が「吃音」をもっているということを知りません。たぶん、自分の親ですら忘れているほど私生活では出てきません。だから、自分でも忘れている時もあります。

 唯一、自分の名前を言うときに、たまに「わたし、今日来ちゃった」みたいな感じで「吃音ちゃん」はやってきます。

「え、今日ですか? ・・・まあ、春だから仕方ないか。来たかったんだね。じゃあ、一緒に行こう。」ぐらいの気持ちで受け入れています。

「吃音」という現象が何故起こるのかは私にも分かりません。でも、必要だから起こるということは理解しています。世の中に必要のないものは存在しないのですから。

 

 私は「吃音」のおかげで、言葉を瞬時に書き換えることができるようになりました。そして、比較的たくさんの言葉を知っています。「吃音」が言葉を知る必要性を与えてくれたのでしょうね。

 もしかしたら、コミュニケーションにおいて、言葉が出ない事による真実が隠されているような気もしています。宇宙人はテレパシー交流みたいですからね。

 さらに、言葉というのは、地球上では人間だけが高度に使いこなします。だからといって、ぺらぺらと流暢に話すことが高度ということではないはずです。しゃべらなければ、「思慮深そうな人だ」なんて見られちゃうこともあります。

 そうやって、「吃音」の存在意義を考えるだけで楽しいし、向き合っていることになるのではないでしょうか。

 

 最後になります。

 「吃音」は、隠れたがりますが、隠さないでください。

 どんどん披露しましょうと言っているのではありません。

 隠さないというのは、閉じ込めないでということです。自分で「吃音」の状態を認めて、共に生きていくことを選択すれば問題はなくなります。対処方というのは、お互いがうまく生きていくための折衷案なのです。こっちの言い分も聞いてもらう代わりに、名前ぐらいはいいよという気持ちがいいのかな?と思っています。

 

 私の書いた記事が「吃音」に悩む人に届いて、「吃音ちゃん」と仲良くなれるように願っていますね。