初任の頃にお世話になった学校には、魅力的な先生がたくさんいました。私が未熟だったからそう見えたというわけではありません。今考えても魅力的だったということを確信しています。
退職間際の林先生という方がいました。担任を持たず、主にサポーターとして活動していましたが、ある学級が崩壊して担任がいなくなったので、2年生の臨時担任となったときのことです。
その頃の私は、5年生を担任する2年目の教師として、授業上達を目指していましたから、若さを活かして聞きまくっていました。
ベテランの授業
「林先生の授業は一度見ておいた方が良いぞ。」というアドバイスを別の先生から頂いていましたので、早速交渉です。
「実は先生の授業は是非見ておくようにと言われましたので、お願いしたいのです。」
「僕の授業をかい?いやー、まいったなー。見てもしょうがないぞ。」
というご謙遜ですが、そういう ご謙遜される先生の授業はたいしたことある ということは分かっていましたので、さらにしつこくお願いして許可を頂きました。
授業は、やはりみごとでした。何が見事なのか、細かいことは当時の私には分かるはずがありません。自分の実力以上のことは分からないのです。しかし、次のようなことは分かりました。
・林先生はみんなのことをきちんと見ている。
・林先生は褒めるのが上手である。
・林先生の授業は手を上げて当ててほしくなる。
・林先生の授業はあたたかい。
そして、次が最重要ですが
・林先生の授業はチョーク一本で行っている。
放課後、授業の感想を伝え、さらに授業のコツを伺いました。すると、またご謙遜です。
「コツだなんて、そんなものは僕にはないなあ~。僕は授業があまり上手じゃないから、とにかくみんなに分かる授業をしたいと準備をしているだけだよ。授業は準備しすぎるってことはないからね。」
「みんなに分かる授業をしたい」というところに感銘を受けました。だって、退職間際ですよ。もう、十分すぎる授業技術があるのです。それが、まだ子ども達に分かるようにと願い、準備をするのがすごいのです。さらに
「僕はもう、古い人間だから、みんなみたいに写真を用意したり、パソコンで指導案を書いたりはできない。昔ながらのチョーク1本で勝負するしかないからね」
と名言が・・・。
意志を受け継ぐ者でありたい
あれから19年の月日が流れ、今は教育界にICTというのがしゃしゃり出てきています(私は基本的には反対の立場です)。研究大会の授業では、画像や写真、張り物やプリントのオンパレードです。
私は、林先生の意志を受け継ぐ者でありたいと願ってきました。
ですから、流行に振り回されないように注意しながら、チョーク1本ってことはありませんが、2本ぐらいで授業できるように努力してきました。チョーク1本で子ども達のことを見取り、分かる授業、楽しい授業、知的好奇心を喚起できる授業ができるなら、それは流行の授業をはるかに凌ぐ授業力です。
本当に、退職される前に授業を見られたことは幸せなことでした。私は退職される直前まで、ちょくちょく話を聞きに行きました。すると、退職する日に
「こんなもの、もらっても困っちゃうだろうけど、僕の授業に対する考え方を書いたから、もし良かったら読んで。」
と、長い文章を綴った紙をくれました。しかも、直筆です。今でも大切に取っています。どんなことが書かれているのか、次回の記事で紹介しますね。
※チョークは色々使ってみましたが、このダストレスチョークが一番書きやすいです。
柔らかいチョークもあるのですが、変な音がして書いていて心地よくない。ちなみに、チョークの色は、白と黄色の2色で板書が上手なら達人です。