初任時代に林先生にいただいた手紙を読み返してみました。
A4用紙12枚にも及ぶ大作で、主に教師が心得ておくべき日常的な指導について書かれています。改めて読み返してみると、教育の不易の部分として大切なことだらけで、今の学校現場が忘れてしまっていることが網羅されていました。
ブログで紹介しますと書きましたが、膨大な量なのでその内容のタイトルと、その一部を紹介します。
【タイトル一覧】
・重点目標にせまる学級経営
・下調べ(予習)
・次の学習準備
・チャイム着席
・学習はじめの挨拶
・教師からの発問
・子どもの挙手
・指名
・発表
・聞く
・聞き返し
・聞いていての疑問点・・質問
・練り合い
・聞いた後の反応
・解決(まとめ)
・座席配置とグループづくり
・学級通信一考
・他を抑圧してしまうようなボス的存在のない学級
・友人間のトラブルが少ない学級
・お互いの人格や個性を認め合える学級
・皆が力を出して、協力しながら学び合う学級
どの内容も教師哲学や信念、そして実践に支えられた素晴らしい提言です。その中の1つだけ紹介します。
【学級通信一考 (前半部分)】
私は学級通信というものをこれまで一度も発行したことがない。教壇に立つようになってしばらくは、学年通信はあっても学級通信を見かけることはほとんどなかった。学年5クラスどころか7クラスの中にあっても誰一人学級通信を出している様子はなくて、当番が回ってきたときだけ学年通信をあたふたと書くのである。そのうち学級通信なるものが出回るようになっても私は全く関心をそそられることはなかった。
教師になって15年目、5月初めのこと、担任している1年生の親から、連絡ノートに「上の姉のクラスの方は、もう学級通信が第○○号にもなっているのに、林先生からは、まだ1枚ももらっていません。連絡網も早くほしいから通信にして出してください」と、思いも寄らぬ内容が目に飛び込んできた。
これはただただ唖然とするばかりであったが、やがて驚きもさめて意気奔騰し、自分は学級通信は全く出す気がないこと、そのかわり通信に要する時間を学習時間への充実、家庭学習や宿題、そして学級経営への充実目指して取り組んでいくこと、ただ連絡網だけはプリントしてすぐ配布する旨を返信として伝えた。
ところが次の日、また連絡ノートが渡されて、今度は1ページをこえる字数がびっしりと紙面をうずめているではないか。もう怒り心頭に発して、その倍を超える内容を、手に力をこめながら書き綴って送り返した。
そして2~3日後、その家への家庭訪問である。
予想通り、訪問時間は学級通信云々のやりとりに終始した。父親も同席していて2人で攻撃してくるのかと身構えていたが、母親のまくしたてるのを沈思黙考しているだけで、これは助かった。結局はらちがあかなくて不信感を残したまま訪問が終わってしまうことになった。
教育熱心な家庭で、子どもも親のリードでよく家庭学習に取り組んでくることから、毎日丁寧にノートに目を通しながらまるつけして褒め言葉も書いてやっていた。それ以上に授業の準備や教材研究には粉骨砕身の思いで、児童の学習意欲向上に腐心していた。
その1年の終了時、「卒業と終了を祝う会」が催されて、数人の親が私のテーブルを囲んでいる。その中に母親の姿があった。なんと、私に深々と頭を下げて非礼を謝ってきたではないか。
学級通信をだすようにという親側からの要求はこれ1回限りである。
どうして私は学級通信の発行を考えなかったのか。面倒だからではない。私は文章を書いたりカット絵を描いたりするのは決して嫌いではない。
教師であれば誰もが「よい先生」と言われたいはずである。私もその例に洩れない。学級通信をたくさん出すことで「よい先生」になれるのであればそんな簡単なことはないと思っている。しかしながら私の下した結論は、残念なことに、その方向を是とするものではなかった。
学級通信とは、あくまで家庭通信であって、その度重なる発行は、我々の少ない貴重な勤務時間の中から保護者向けとして多くの時間の消費を強いられることになる。
教師の使命は何といっても子ども達への指導時間を大切に考えなければなならいと思っている。とりわけ毎日の学校生活の時間帯が学習時間になっていることを思えば、日常の学習指導実践の充実こそが生命線と言わなければならない。
45分という短い時間の中で、どのように授業を構築し、資料をそろえて本時の目標に迫っていくか、その児童にせまっていくステップを日案する時間が是非ほしいと常々願っている。
日頃何かの要因があって、なかなか時間的余裕も生み出せない毎日ではないか。こういう現状がある中で、保護者向けの学級通信に時間を奪われるのは自分にとって不本意としか言いようがない。
疲れて家庭にもどってからもテストのまるつけ他、部外者には知り得ない仕事が待っているのは周知の通りである。もちろん、学校では時間不足で、指導書を持ち帰らなければならない日も多いことであろう。「プロの教師は授業で勝負する」とよく聞かされてきた覚えがあるが、正にその通りと思うのである。
私個人の見解
文章を再現しながら感じるのは、林先生の当時の熱意です。
今、このような退職間際のベテラン先生がいるのでしょうか?
前にも書きましたが、19年前に書かれた文章です。
本当は強調したい文がいくつもあるのですが、いただいた手紙は強調されていなかったので、そのままにしています。
また、前回の記事で「直筆」と書きましたが間違いでした。
一部直筆で、ほとんどがワープロ打ちでした。
記憶って、鮮明に残っているところが自分の中で強調されるのだと、改めて実感しました。
ブログの文字数が2400字を越えました。
これぐらいになると、反応がやや鈍くなってしまい、打ちにくくなるので、2回に分けてご紹介することにします。
後半は、当時の勤務校のお話になります。
お楽しみに!