もう何年も前のお話です。
私が5年生の担任をしていた時のある朝、女の子が髪をばっさりと切ってきました。
おかっぱみたいな髪型です。
それがとても似合っていたので
「いいねーー! すっごい似合ってる! 先生、その髪型好きだなー」
と、本当に思ったのでそう言いました。
すると、女の子達がぞろぞろと集まりはじめ
「うん、いいね。」
「とても似合ってる!」
と、私の感想に同調です。
その数日後、参観日がありました。
保護者懇談会終了後、その女の子のお母さんが私のところに来て、
「先生、うちの子の髪型を褒めてくださって、ありがとうございました。」
と言うのです。
「とっても似合ってて、素敵ですね。」
と私も伝えましたら、お家であった出来事を教えてくれました。
その女の子の髪はお母さんが切ったそうです。
お母さんが「切るかい?」と聞いたら、嬉しそうに「うん」と言うので、切ったそうなのですが、切り終わったら
「もう、こんな髪型じゃあ、学校に行けないわ! うえーん うえーん」
と泣きじゃくったそうです。
お母さんがいくら「似合ってる」と言っても、全く聞かなく、次の日の学校へ行く直前も泣いて暗い表情だったので、心配していて、先生に電話しようと思ったくらいだそうです。
それが、帰宅してみると娘がルンルン気分で
「お母さん! 私、ずーっとこの髪型でいいから!」
と言うんですって。
「先生が、すごい似合ってるって言ってた!」
「友達にも褒められた!」
その子は、6年生の卒業まで、ずっとその髪型でした。
髪を切ったということ、髪型がおかっぱになったという事実は変わりません。
それをどう思うか、その認識が変わっただけです。
事実は変わらないのに、思いが変わっただけです。
その一件で、私は教師の発言のもつ影響力を改めて実感しました。
だから、教師は、子どもを勇気づけるような言葉を心がけ、
子どもを悲しませる言葉はつつしまなければ・・・・と今でも意識しています。
たとえ、ジーズが穴だらけの子がいても(ダメージジーンズというそうです)
「もう、ボロボロだから、新しく買い換えた方がいいよ」
とは言ってはいけないのかも知れません。
たとえ、肩に大きく穴の開いたシャツを着てきた子がいても
「穴、開いちゃってるじゃん! もう新しいの買いな!」
とは言ってはいけないのかも知れません。
もう、全部「いいね、いいね」と言っていれば、子どもは嬉しくなります。
もう、ここまでダメージを受けちゃっていたら、勘違いもされませんよ。さあ、勇気をだしてはいてみましょう。ダメージを受ける勇気です。